結論(30秒でわかる要点)
フィリピンでの会社設立は、SEC(フィリピン証券取引委員会)への登記を中心に、複数の行政手続きを順番にこなしていく作業だ。手順さえ把握しておけば、個人でも進められる部分は多い。ただし、外資規制・税務・役員要件など、日本とは異なるルールが随所にあるため、現地の専門家との連携が不可欠だ。
- 重要ポイント①:外資100%設立には原則20万USD以上の資本金が必要
- 重要ポイント②:設立完了まで通常3〜6ヶ月、書類不備があれば1年超も
- 重要ポイント③:業種によっては外資規制(ネガティブリスト)の対象になる
- 対象読者:フィリピンでの起業・法人設立を真剣に検討している日本人の起業家・フリーランス・富裕層
- 注意:本記事の制度・費用情報は執筆時点のものであり、法改正により変更される可能性があります。最新情報は必ずSEC・PEZAなど公式機関で確認してください。
はじめに

「フィリピンで会社を設立したい」と考えながら、何から手をつければいいかわからない——そんな状態で立ち止まっている方は少なくない。フィリピンは人口1億人超・平均年齢24歳という若い労働市場を持ち、英語が通じるビジネス環境、日本との時差わずか1時間という地理的優位性から、近年日本人起業家の進出先として急速に注目を集めている。
しかし実際に動き出そうとすると、外資規制・役員要件・税務登録・営業許可など、日本とはまったく異なるルールの壁にぶつかる。情報が断片的で、どこまで自分でできてどこから専門家に頼むべきかも見えにくい。
この記事では、フィリピン会社設立の手続きを「法人形態の選択」から「事業開始後の手続き」まで一気通貫で解説する。
この記事でわかること
- フィリピンで選べる法人形態の違いと選び方
- SEC登記からBIR税務登録までの具体的なステップ
- 費用・資本金の実態と、よくある失敗パターン
フィリピン会社設立 手続きの基礎知識

「フィリピン会社設立手続き」とは
フィリピン会社設立手続きとは、SEC(フィリピン証券取引委員会)への法人登記を中心に、地方自治体の営業許可取得・BIR(フィリピン国内歳入庁)への税務登録などを順次完了させ、フィリピン国内で合法的に事業を営む法人格を取得するまでの一連のプロセスを指す。
フィリピンの法人形態:3つの選択肢
フィリピンで事業拠点を構える場合、主に以下の3形態から選ぶことになる。
① 現地法人(株式会社)
最も一般的な形態。日本本社とは独立した法人格を持ち、フィリピン国内での営業活動に制限がない。業種や外資比率によって最低資本金が変わる。2019年の改正会社法施行以降、一人会社(OPC:One Person Corporation)として株主1名での設立も可能になった。
② 支店(Branch Office)
日本の親会社の延長として設立する形態。維持コストが現地法人より低い場合があるが、フィリピンで法的問題が発生した際のリスクが親会社に直接及ぶ点は要注意だ。原則として20万USDの資本金払い込みが必要。
③ 駐在員事務所(Representative Office)
市場調査・情報収集・PRなどに活動が限定され、フィリピン国内での収益活動は禁止されている。運営資金として最低3万USDの送金が必要。フィリピン進出の「テスト段階」として活用されることが多い。
フィリピンを選ぶ理由:数字で見る優位性
- 人口:2025年時点で約1億1,000万人超(フィリピン統計庁・PSA)
- 経済成長率:近年6〜7%台を維持(BSP・フィリピン中央銀行データ)
- 人口ボーナス期:2050年まで生産年齢人口が優位な状態が続くと予測
- PEZA(フィリピン経済特区庁)登録企業:法人税免除(4〜8年間)などの税制優遇が受けられる
- 英語環境:ビジネス実務で英語が通用するため、日本人経営者でも意思疎通がしやすい
フィリピン会社設立 手続きの具体的なステップ

Step 1〜6:設立の流れ
フィリピンでの現地法人(株式会社)設立は、大きく以下のステップで進む。
Step 1:事前準備(1ヶ月程度)
- 業種の外資規制(ネガティブリスト)確認
- 進出形態(現地法人・支店・駐在員事務所)の決定
- 役員・株主構成の決定
- オフィス(登記住所)の確保
Step 2:会社名の確認・定款作成(1〜2週間)
- SEC(フィリピン証券取引委員会)で会社名の重複確認
- 定款(Articles of Incorporation)・付属定款(By-Laws)の作成
- 外資企業の場合は「事業開始申請書(SEC書式番号F-100)」を使用
Step 3:TITF口座の開設・資本金払い込み(1〜2週間)
- 資本金払込専用の仮法人口座(TITF口座)を銀行で開設
- 代表取締役と財務役が銀行窓口でサインする必要がある
- 資本金を同口座に入金し、払込証明書を取得
Step 4:SEC(フィリピン証券取引委員会)への申請(1〜2週間)
- 準備書類をSECに提出し、担当弁護士によるチェックを受ける
- 書類に不備がなければ、通常2週間以内に「会社登録証書(Certificate of Incorporation)」が発行される
- 登録手数料:払込資本金の約0.2〜0.5%が目安
Step 5:法人口座の開設・TITF口座の閉鎖(1〜2週間)
- SEC発行の会社登録証書を持参して正式な法人口座を開設
- TITF口座の資本金を法人口座に移し替え、TITF口座を閉鎖
Step 6:事後手続き(2〜3ヶ月)
- バランガイ・クリアランス取得(地方末端行政区)
- 市長許可証(Business Permit)の取得
- BIR(フィリピン国内歳入庁)への税務登録(BIR書式番号1903)
- 印紙税の納付(株式発行翌月5日までに200ペソにつき1ペソ)
- 社会保険(SSS・PhilHealth・Pag-IBIG)への登録(従業員を雇用する場合)
費用・コストの実態
設立にかかる費用は、法人形態・資本金額・業種・依頼する専門家によって大きく変わる。以下は一般的な目安だ。
| 費用項目 | 現地法人(目安) | 支店(目安) | 駐在員事務所(目安) |
|---|---|---|---|
| SEC登録手数料 | 資本金の0.2〜0.5% | 5〜10万PHP | 準備金の0.1%または1,000PHP |
| 地方自治体手続き費用 | 1〜5万PHP | 1〜5万PHP | 1〜5万PHP |
| BIR登録・税務関連 | 1〜3万PHP | 1〜3万PHP | 1〜3万PHP |
| 弁護士・コンサル委託費 | 20〜50万円相当 | 25〜60万円相当 | 15〜35万円相当 |
| 書類翻訳・公証・認証 | 5〜15万円相当 | 10〜20万円相当 | 5〜15万円相当 |
| 合計目安(日本円換算) | 30〜80万円程度 | 40〜100万円程度 | 20〜55万円程度 |
※上記は資本金を除いた設立コストの目安。為替レートや専門家報酬により変動する。
最低資本金の目安
| 外資比率・事業区分 | 最低払込資本金 |
|---|---|
| 外資40%以下(国内市場向け) | 制限なし(実務上10万PHP以上推奨) |
| 外資40%超(国内市場向け) | 20万USD以上 |
| 外資40%超・先端技術使用またはフィリピン人15名以上雇用 | 10万USD以上(軽減措置) |
| 輸出型企業(売上60%以上が輸出) | 規制なし |
| 駐在員事務所 | 3万USD以上(運転資金として送金) |
| 支店(輸出型を除く) | 20万USD以上(運転資金) |
注意点・リスク(正直に伝える)
フィリピンでの会社設立には、見落としやすいリスクが複数存在する。
- 設立期間の長期化リスク:書類不備や行政側の処理遅延により、当初の想定より大幅に時間がかかることがある。通常3〜6ヶ月を見込むが、1年以上かかる事例も珍しくない
- 外資規制(ネガティブリスト)の罠:小売業・メディア・教育・不動産など、外資比率に上限がある業種が多い。事前確認なしに進めると、設立後に業種変更を余儀なくされる
- 役員要件の厳格さ:秘書役(Secretary)はフィリピン在住のフィリピン人でなければならず、外国人は就任不可。財務役(Treasurer)もフィリピン居住者が求められる
- アンチダミー法のリスク:外資規制を回避するため名義上のフィリピン人株主を立てる「ダミー」行為は法律で禁止されており、刑事罰の対象になる
- インフラ・行政処理のペース:停電・インターネット障害・担当者の交代など、日本では想定しにくい遅延要因が現場では日常的に発生する
成功のポイントと事例

実践者の声(匿名)
フィリピンに移住してITサービス会社を設立した40代の日本人起業家は、こう振り返る。「最初の3ヶ月は書類の往復だけで終わった。定款の文言一つで差し戻されることもあって、現地の弁護士なしには絶対に無理だったと思う。でも設立後は、英語で採用できる優秀なスタッフが確保でき、コスト構造が日本と全く変わった」。
また、セブ島でコンサルティング会社を設立した50代の日本人は、PEZA登録を活用して法人税免除期間中に事業基盤を整えた。「最初からPEZA区域内でオフィスを借りたことで、税制面でのアドバンテージが大きかった。ただ、PEZA登録の審査自体に3〜4ヶ月かかるので、スケジュールには余裕を持って動いてほしい」と話す。
よくある失敗と対策
失敗①:役員の確保を後回しにした
秘書役・財務役はフィリピン人居住者でなければならないため、いざ設立手続きに入って「役員が見つからない」と立ち往生するケースが多い。信頼できる現地パートナーを事前に確保しておくことが不可欠だ。
失敗②:資本金の外貨送金を軽く見た
20万USDの資本金を日本から送金する際、銀行の送金手数料・為替レート・送金限度額に引っかかるケースがある。送金スケジュールと手数料は事前に金融機関に確認しておきたい。
失敗③:PEZA・BOI登録の対象確認を怠った
PEZAやBOI(フィリピン投資委員会)の税制優遇を受けられる業種・条件を確認せずに設立し、後から「登録できなかった」と気づくパターンがある。事業計画の段階で優遇制度の適用可否を確認することを強く推奨する。
よくある質問(専門家に聞く)
フィリピン移住・起業コンサルタントの大町潤一氏(GENSAI Career Consulting Corp)に、実際の相談現場で多く寄せられる質問に答えてもらった。
Q. フィリピンで会社を設立するとき、日本人が勘違いしやすいことを教えてください。
フィリピンでの起業相談を300〜500人から受け、50〜100社の設立をサポートしてきた経験から言うと、日本人が特に勘違いしやすいポイントが3つあります。
1つ目は営業許可の更新頻度と税務申告の多さです。フィリピンでは毎年の営業許可更新が必須で、税務申告の回数も日本より圧倒的に多い。これを事前に知らずに設立してしまう方が非常に多いです。
2つ目は契約文化の違いです。雇用契約を細かく文書化しないと揉めやすく、「契約書にない」と言われてしまうケースが頻繁に起きます。
3つ目は外資規制の誤解です。「日本人100%資本で何でも設立できる」と思い込んでいる方が多いのですが、小売業・メディア・教育などは制限があります。私自身も3社の設立を経験しましたが、この3つは必ず事前にクリアにしてから進めてください。起業前に必ず現地の弁護士・会計士に相談することをお勧めします。
Q. フィリピンに移住した日本人は、日本とフィリピンの両方で税金を払う必要がありますか?
多くの方が誤解されている点ですが、日本の税務上「居住者」か「非居住者」かによって扱いが大きく変わります。日本の居住者(1年以上継続して海外に居住しない等)は原則として全世界所得が日本の課税対象です。
非居住者となるには、住民票の海外転出届、健康保険・年金の手続き変更、生活の本拠を日本に置かないことが必要です。フィリピン国内での所得はフィリピン国内税として別途課税されます。日本とフィリピンには租税条約があり、二重課税防止のための外国税額控除が適用できますが、申告が必要です。
税務の判断はお住まいの状況によって異なるため、必ず日本の税理士とフィリピンの会計士の両方に相談されることをお勧めします。
制度・手続きに関するQ&A

Q1. フィリピン会社設立 手続きに必要な資金・条件は?
外資比率40%超の国内市場向け企業の場合、最低払込資本金は20万USD(約3,000万円前後)が原則だ。ただし、先端技術を活用する事業またはフィリピン人を15名以上直接雇用する場合は10万USDに軽減される。輸出型企業(売上の60%以上が国外)として認定されれば、資本金規制が撤廃される。外資比率40%以下であれば資本金規制はないが、銀行が独自に最低預金残高(50〜100万PHP)を求めるケースもある。業種によって別途ライセンス要件が加わることもあるため、事前に専門家への確認が必須だ。
Q2. フィリピン会社設立 手続きにかかる期間は?
事前準備から事業開始まで、標準的には3〜6ヶ月を見込む。内訳は、事前準備・役員確保・書類準備で約1ヶ月、SEC登記で2週間〜1ヶ月、事後手続き(営業許可・BIR登録など)で2〜3ヶ月が目安だ。株主・取締役に外国法人や外国人が含まれる場合、パスポートのアポスティーユ認証付き書類の準備に追加の時間がかかりやすい。書類不備や行政側の処理遅延が重なると、1年以上かかるケースも実際に存在する。
Q3. 秘書役(Secretary)は日本人が就任できないのか?
できない。フィリピン会社法上、秘書役はフィリピンに居住するフィリピン人市民でなければならないと定められており、外国人は就任不可だ。代表取締役(President)との兼任も認められていない。信頼できる現地のフィリピン人を事前に確保しておくことが、手続きをスムーズに進める上で最初の関門となる。
Q4. PEZA登録とBOI登録の違いは何か?
PEZA(フィリピン経済特区庁)は特定の経済特区内に拠点を置く企業を対象とした優遇制度で、IT・BPO・製造業などが主な対象だ。4〜8年間の法人税免除(ITH)や、その後の特別税制(SCIT:総所得の5%)などが適用される。BOI(フィリピン投資委員会)は特区外でも登録可能で、対象業種が広い。どちらも登録審査に2〜4ヶ月程度かかるため、事業計画の早い段階から並行して準備を進めることが重要だ。
Q5. フィリピン会社設立後に必要な定期的な手続きは何か?
設立後も継続的な行政手続きが発生する。主なものは以下の通りだ。
- 毎月:BIR(フィリピン国内歳入庁)への税務申告(付加価値税・源泉徴収税など)
- 四半期ごと:法人税の中間申告
- 毎年1月:市長許可証(Business Permit)の更新
- 毎年4月:法人税の確定申告
- 毎年:SECへの年次報告書(GIS:General Information Sheet)の提出
日本と比較して税務申告の頻度が圧倒的に多い点は、設立前に必ず認識しておく必要がある。現地の会計事務所に月次の記帳・申告を委託するのが一般的だ。
まとめ
フィリピン会社設立の手続きは、複数の行政機関を横断する複雑なプロセスだが、全体像を把握した上で進めれば、確実に前に進められる。
- 法人形態の選択が最初の分岐点:現地法人・支店・駐在員事務所のどれを選ぶかで、資本金要件・リスク範囲・税務処理がすべて変わる
- 外資規制とPEZA・BOI優遇の確認は設立前に必須:業種によっては外資比率の制限があり、逆に優遇制度を活用できるチャンスもある
- 現地の弁護士・会計士との連携が成否を分ける:書類作成・役員確保・税務対応のすべてで専門家の力を借りることが、結果的に最短ルートになる
まず最初に取り組むべきは、自分の事業が外資規制(ネガティブリスト)の対象かどうかを確認することだ。JETROの公式サイトでネガティブリストの最新版を確認し、その上で現地の専門家に相談するという順番が、失敗リスクを最小化する王道だ。
【YMYL注意】本記事の情報は執筆時点のものです。フィリピンの法制度・税制・外資規制は改正されることがあります。実際の会社設立にあたっては、必ずSEC・PEZA・BIRなど公式機関の最新情報を確認し、現地の弁護士・会計士に個別相談の上で判断してください。
出典・参考
- SEC(フィリピン証券取引委員会)公式サイト(https://www.sec.gov.ph)…法人登記手続き・登録手数料・書類要件の根拠
- PEZA(フィリピン経済特区庁)公式サイト(https://www.peza.gov.ph)…PEZA登録の優遇制度・登録フローの根拠
- JETRO(日本貿易振興機構)フィリピン進出情報(https://www.jetro.go.jp/world/asia/ph/)…外資規制(ネガティブリスト)・投資環境の根拠
- BIR(フィリピン国内歳入庁)公式サイト(https://www.bir.gov.ph)…税務登録・申告手続きの根拠
- BSP(フィリピン中央銀行)統計データ(https://www.bsp.gov.ph)…フィリピン経済成長率・金融環境データの根拠
- PSA(フィリピン統計庁)(https://psa.gov.ph)…人口・人口ボーナス期に関するデータの根拠
- JBIC(国際協力銀行)「フィリピンの投資環境」…フィリピン進出時の投資環境全般の参考資料
この記事の監修者
大町潤一(フィリピン移住・起業コンサルタント)
GENSAI Career Consulting Corp 代表取締役、フィリピン在住13年
フィリピン移住・ビザ取得・語学学校経営・会社設立・起業相談、人材派遣、マーケットリサーチなど
幅広い分野で日本とフィリピンの架け橋として13年以上携わる。

