結論(30秒でわかる要点)
フィリピンの最低賃金は地域ごとに異なり、2026年は特にマニラ首都圏(NCR)で異例の法的混乱を経て大幅な引き上げが実施された。フィリピンへの移住・起業・投資を検討する日本人にとって、この制度の理解は人件費計画の土台となる。
- NCR(マニラ首都圏)の非農業部門最低賃金は、2026年9月26日発効の賃金命令NCR-28により日額755ペソ(約1,960円)へ引き上げ
- 全国一律ではなく17地域ごとに賃金命令(Wage Order)で設定。地方都市との差は200ペソ超に達する
- 最低賃金の引き上げは13か月給与・残業代・社会保険料にも連動し、実際の人件費増加は基本給の増加分を上回る
- 対象者:フィリピンでの現地法人設立・スタッフ採用・BPO活用を検討している経営者・起業家
- ⚠️ 賃金命令の内容は随時更新されるため、最新情報はDOLE(労働雇用省)またはNWPC(全国賃金生産性委員会)の公式サイトで確認すること
はじめに

「フィリピンは人件費が安い」という話を聞いて、現地での起業や採用を検討し始めた方は多いと思います。実際に日本と比べると労働コストは低水準ですが、2026年は特にマニラ首都圏で最低賃金をめぐる法的混乱が起き、「今いくらが正解なのか」が見えにくい状況が続きました。
この記事では、フィリピン移住・起業・投資を真剣に検討している方に向けて、2026年の最低賃金の最新動向を地域別に整理し、実務上の注意点、人件費の全体像、そして起業・採用計画への影響まで具体的に解説します。
この記事でわかること
- 2026年のNCR(マニラ首都圏)最低賃金の最新額と、NCR-27問題の経緯
- 主要地域(セブ・中部ルソン・ダバオなど)の地域別最低賃金レート
- 最低賃金に含まれないコスト(13か月給与・社会保険など)の全体像
- フィリピンで採用・起業する際の実務チェックポイント
フィリピン最低賃金2026の基礎知識

用語の定義
フィリピン最低賃金(Minimum Wage)とは:DOLE(労働雇用省)傘下の地域賃金生産性委員会(RTWPB)が地域ごとに発令する賃金命令(Wage Order)によって定められる、雇用主が労働者に支払うべき日額の最低基本給のことを指す。
フィリピンの最低賃金制度の背景と特徴
フィリピンの最低賃金制度は、日本のような全国一律方式ではなく、全国17の地域(Region)ごとに異なる額が設定されている点が最大の特徴です。各地域のRTWPBが物価上昇率・生活費・地域の経済状況・企業の支払能力などを総合的に考慮して賃金命令を発令します。
改定のタイミングは「年1回必ず」ではなく、地域ごとに異なります。近年は多くの地域で年1回前後の改定が行われていますが、NCRのように法的紛争が絡んで混乱するケースもあります。2026年はまさにそのような異例の年となりました。
また、最低賃金は「基本給(Basic Wage)」のみに適用されます。13か月給与・残業代・夜勤手当・各種インセンティブは含まれません。この点は、フィリピンで初めて採用を行う経営者が最もよく誤解するポイントです。
フィリピンを雇用拠点として選ぶ理由(数値で確認)
- 英語力の高さ:EF EPI(英語習熟度指数)でアジア上位圏を維持しており、BPO(ビジネスプロセスアウトソーシング)の世界的拠点
- 若い人口構成:フィリピン統計庁(PSA)によると中央年齢は約25歳と若く、労働力の供給が安定
- 日本との時差1時間:リモート業務・オンラインミーティングのスケジュール調整が容易
- 人件費の水準:NCRの最低賃金(日額755ペソ・約1,960円)は
月額換算で約19,630ペソ(約5万円)。日本の最低賃金と比べると大幅に低い水準
2026年の最低賃金:地域別最新レートと混乱の経緯

NCR(マニラ首都圏)をめぐる異例の展開
2026年のNCRの最低賃金は、単純な「引き上げ」ではなく、法的混乱を経た複雑な経緯をたどりました。経営者・起業家として正確に把握しておく必要があります。
経緯の流れ
- 2026年6月:RTWPB-NCRが賃金命令NCR-27を発出。日額85ペソ(約221円)の引き上げを2段階で実施(第1段階695→755ペソ、第2段階は2027年1月に780ペソ)
- 2026年7月9日:NCR-27の第1段階(695→755ペソ)が発効
- その後:建設関連企業2社の申立てを受け、パシッグ地方裁判所がNCR-27の実施を一時停止する仮処分命令(TRO)を発令
- TRO期限切れ後:予備的差止命令に移行し、差止めが継続。旧賃金命令の695ペソ(約1,807円)が適用される状態に
- 2026年9月:RTWPB-NCRがNCR-27とは別の新たな賃金命令NCR-28を発出。日額60ペソ(約156円)の引き上げ(非農業:695→755ペソ)
- 2026年9月26日:NCR-28が発効
結果として、NCR-28により非農業部門の最低賃金は日額755ペソ(約1,960円)となりました。農業・従業員15人以下の小売サービス業・10人未満の製造業は718ペソ(約1,867円)です。NCR-27については、2026年9月時点でも裁判所での係争が継続しており、最終的な法的判断は確定していません。
主要地域の最低賃金一(日給)覧(2026年・非農業部門)
※円換算は1PHP=2.6円(2026年10月時点の参考レート)を使用。実際のレートは変動するため、予算計画には最新レートをご確認ください。
| 地域 | 最低賃金(日額・PHP) | 円換算(参考) | 備考 |
|---|---|---|---|
| NCR(マニラ首都圏) | 755ペソ(非農業)/718ペソ(農業・小規模) | 約1,960円/約1,867円 | NCR-28、2026年9月26日発効 |
| Region III(中部ルソン) | 約515〜600ペソ | 約1,339〜1,560円 | 業種・市区分により異なる |
| Region IV-A(カラバルソン) | 約508〜600ペソ | 約1,321〜1,560円 | 日系製造業の集積エリア |
| Region VII(中部ビサヤ・セブ) | 582ペソ(Class A)/542ペソ(Class B) | 約1,513円/約1,409円 | 2026年10月14日から新レート適用 |
| Region X(北ミンダナオ) | 約485〜500ペソ | 約1,261〜1,300円 | 2026年追加引き上げが一部適用 |
| Region XI(ダバオ地方) | 約525〜540ペソ | 約1,365〜1,404円 | 地域内でも業種・規模により差異あり |
※ 実際の適用賃金は業種・企業規模・市区分等によって異なります。各RTWPBが発行するWage Orderの原文を必ず確認してください。
セブ島の最低賃金(日給)(2026年10月以降)
セブを含む中部ビサヤ(Region VII)では、RTWPB-VIIがWage Order No. ROVII-27を2026年9月14日に発行し、
10月14日から新レートが適用されます。
- Class A(Expanded Metro Cebu:セブ市・ラプラプ市・マンダウエ市など):日額582ペソ(約1,513円)(540ペソから42ペソ増)
- Class B(その他の対象都市・自治体):日額542ペソ(約1,409円)(500ペソから42ペソ増)
なお、家事使用人(Kasambahay)については通常の最低賃金とは別に月額制で定められており、Region VIIでは2026年10月14日から月額7,500ペソ(約19,500円)へ引き上げられます。
最低賃金に含まれないコスト:人件費の全体像

最低賃金は「基本給」のみ。実際の人件費はこれだけ増える
フィリピンで採用する際に最もよくある誤算が「最低賃金だけで人件費を計算してしまう」ことです。法定で義務付けられている以下のコストが別途発生します。
法定で必ず支払う義務があるもの
- 13か月給与(13th Month Pay):年間基本給の12分の1を12月5日までに支給。1か月以上勤務した全従業員が対象
- SSS(社会保障制度):雇用主と従業員の双方が掛け金を負担。雇用主負担は給与額に応じて変動
- PhilHealth(フィリピン健康保険):給与の2.5%を雇用主・従業員それぞれが負担
- Pag-IBIG(住宅相互基金):雇用主・従業員それぞれ給与の2%(上限PHP 200・約520円)
- 休日手当・残業代:通常勤務日の残業は基本給の125%、休日出勤は130%以上
試算例(NCR・非農業部門・月26日勤務の場合)
- 基本給:755ペソ × 26日 = 月額19,630ペソ(約51,000円)
- 13か月給与の月割:約1,636ペソ(約4,250円)
- 雇用主負担のSSS・PhilHealth・Pag-IBIG:合計で月額約2,000〜3,000ペソ(約5,200〜7,800円)程度(給与額により変動)
- 実質的な月間人件費の目安:月額23,000〜25,000ペソ(約59,800〜65,000円)前後
つまり、基本給だけで計算するより15〜20%程度多く見込む必要があります。
最低賃金の対象外となる特殊ケース
以下のケースは通常の最低賃金規定が適用されない、または別の規定が適用されます。
- Kasambahay(家事使用人):日額ではなく月額制の別途規定が適用される
- BMBE(バランガイ最小規模企業)登録事業者:最低賃金法の適用除外。ただしSSS・PhilHealth・Pag-IBIGの付与義務は残る
- Apprentices(見習い労働者):DOLEの承認を受けた制度では最低賃金の75%以上の支払いが認められる場合がある
起業・採用時の実務チェックポイント

Step 1:拠点の所在地と適用賃金命令を確認する
フィリピンは17地域に分かれており、同じ「セブ」でもClass AとClass Bで賃金が異なります。複数拠点を持つ場合は、拠点ごとに適用されるWage Orderを個別に確認することが必須です。給与計算システムのマスターデータを地域別に管理していない場合、意図せず最低賃金を下回るリスクがあります。
Step 2:月給制従業員も「日額換算」で確認する
月給制で雇用している場合でも、日額換算で最低賃金を満たしているかを確認する必要があります。NCRであれば、月給÷26日(または勤務日数)が755ペソ(約1,960円)以上であるかを確認してください。
Step 3:賃金歪曲(Wage Distortion)への対応
最低賃金が引き上げられると、新入社員と経験者・上位等級の賃金差が縮小・逆転する「賃金歪曲(Wage Distortion)」が発生することがあります。これを放置すると従業員のモチベーション低下・離職につながります。
- 労働組合がある場合:団体交渉により是正
- 労働組合がない場合:会社と従業員の協議により解決
最低賃金改定のたびに、給与テーブル全体を見直す習慣をつけることが重要です。
Step 4:13か月給与・残業代・社会保険料への波及を試算する
基本給の引き上げは、以下の項目に連動して人件費全体を押し上げます。
- 13か月給与(基本給ベースで計算)
- 残業代・休日手当・夜間手当(基本給に連動)
- SSS・PhilHealth・Pag-IBIGの雇用主負担分(給与額に応じて増加)
新しい賃金命令の施行日が決まったら、これらすべての項目を含めた人件費の再試算を行ってください。
Step 5:最低賃金違反のリスクと罰則
DOLEの検査により最低賃金違反が発覚した場合、以下の制裁が科される可能性があります。
- 不足分の遡及支払い義務
- 罰金:PHP 25,000〜100,000(約65,000〜260,000円)
- 禁固刑:2〜4年
- 悪質な場合は事業許可の取消
成功のポイントと実践者の声

実際にフィリピンで採用した経営者の体験談
フィリピンに現地法人を設立し、マニラでスタッフを採用した40代の日本人IT系経営者は、こう話しています。
「最初に人件費を計算したとき、基本給だけで見ていたので、実際に動き始めてから13か月給与や社会保険の雇用主負担が加わって予算が想定より膨らみました。最低賃金の1.3〜1.5倍程度を実際の月間コストとして見込んでおくべきでした。ただ、英語でのコミュニケーションがスムーズで、業務スピードも想定以上。コストパフォーマンスは日本と比べて明らかに高い」
よくある失敗と対策
失敗1:賃金命令の施行日を見逃して旧レートで給与を支払い続ける
→ 対策:RTWPBやDOLEの公式サイトをブックマークし、施行日前にアラートを設定する
失敗2:基本給ではなく総支給額(インセンティブ込み)で最低賃金をクリアしていると誤解する
→ 対策:「基本給のみ」で最低賃金を満たしているか、給与明細を分解して確認する
失敗3:賃金歪曲を放置してベテラン社員が不満を持ち離職する
→ 対策:最低賃金改定のタイミングで全等級の給与テーブルを一斉に見直す

よくある質問(専門家に聞く)
フィリピン移住・起業コンサルタントの大町潤一氏(GENSAI Career Consulting Corp)に、移住・投資を検討している方からよく寄せられる質問に答えていただきました。
Q. フィリピン移住・投資を考え始めたとき、最初に何をすれば良いですか?
まず大切なのは「目的の明確化」です。移住・不動産投資・起業・株式投資、それぞれ必要な準備と資金規模が異なります。最初にご自身の優先順位を整理してください。次に、1〜2週間の短期リサーチ渡航を強くお勧めします。マニラとセブ島を実際に歩き、コンドミニアムを見学し、現地のコミュニティに触れることで、情報と実感が一致します。その後、税務・ビザ・法律の各専門家に具体的な状況を相談し、6〜12ヶ月のロードマップを作ることが現実的なステップです。よくある失敗パターンは「情報収集だけを2〜3年続けて動けない」と「勢いで移住して準備不足に気づく」の両極端です。私は「まず6ヶ月以内に試住」を目標に設定することをお勧めしています。動くことと準備することのバランスが、移住成功の鍵だと感じています。
Q. フィリピン(マニラ・セブ)での日本人の生活費はどれくらいかかりますか?
マニラのBGCエリアで1LDKのコンドミニアムを賃借する場合、月5〜10万ペソ(約13〜26万円)の家賃が相場です。食費は自炊なら月1〜2万ペソ(約26,000〜52,000円)程度、外食中心でも日本食を多用しなければ2〜3万ペソ(約52,000〜78,000円)程度に収まります。エアコンを多用するため光熱費は月5,000〜10,000ペソ(約13,000〜26,000円)ほどかかります。私(大町)の感覚では、日本と同程度の生活水準を維持するなら、マニラで月2〜3.5万ペソ(約52,000〜91,000円)、セブ島なら1.5〜2.5万ペソ(約39,000〜65,000円)が現実的な目安です。ただし生活スタイルや住宅グレードによって大きく異なります。日本との二拠点生活を想定するなら、航空券代や国内の維持コストも別途見込む必要があります。
制度・手続きに関するQ&A

Q1. フィリピンの最低賃金は日額・月額どちらで設定されていますか?
A. フィリピンの最低賃金は日額(1日あたり)で設定されています。月給制で採用する場合も、日額換算で最低賃金を満たしているかを確認する必要があります。NCRの場合、月26日勤務で換算すると755ペソ×26日=月額19,630ペソ(約50,940円)が最低ラインです。
Q2. PEZA(フィリピン経済特区庁)登録企業にも最低賃金は適用されますか?
A. はい、PEZA登録企業であっても最低賃金法は適用されます。外資系・日系企業を問わず、フィリピン国内で雇用する従業員に対しては、拠点所在地の賃金命令に従った最低賃金以上の基本給を支払う義務があります。
Q3. 試用期間中でも最低賃金の支払い義務はありますか?
A. はい、試用期間中(最長6か月)であっても最低賃金以上の基本給を支払う義務があります。試用期間中だからといって最低賃金を下回る給与を設定することは違法です。
Q4. 最低賃金の引き上げはどのくらいの頻度で行われますか?
A. 地域ごとに異なりますが、近年は多くの地域で年1回前後の改定が実施されています。ただし「必ず年1回」という規定はなく、RTWPBが地域の経済状況を踏まえて判断します。NCRでは2024年に645ペソ(約1,677円)、2025年に695ペソ(約1,807円)、2026年に755ペソ(約1,963円)と、毎年引き上げが続いています。
Q5. 最低賃金違反が発覚した場合、どのような対応が必要ですか?
A. DOLEの検査や従業員からの申告により違反が発覚した場合、不足分の遡及支払いが求められます。さらに罰金(PHP 25,000〜100,000・約65,000〜260,000円)や禁固刑(2〜4年)が科される可能性もあります。悪質なケースでは事業許可の取消処分となることもあるため、賃金命令の施行日に合わせた給与設定の見直しを徹底してください。
まとめ
- 2026年のNCR最低賃金は日額755ペソ(約1,960円・非農業)。NCR-27の法的混乱を経て、NCR-28により9月26日に発効。セブ(Class A)は10月14日から582ペソ(約1,513円)へ
- 最低賃金は「基本給のみ」に適用。13か月給与・社会保険・残業代を含めた実際の人件費は月額23,000〜25,000ペソ(約59,800〜65,000円)前後で見込む必要がある
- 賃金命令は地域・業種・企業規模ごとに異なる。複数拠点を持つ企業は拠点ごとの確認が必須。賃金歪曲(Wage Distortion)への対応も忘れずに
まず取り組むべき行動:自社拠点の所在地に対応するRTWPBの最新Wage Orderを確認し、全従業員の基本給が現行最低賃金を満たしているかを確認することから始めてください。
> ⚠️ YMYL注意:本記事は公開情報をもとに作成していますが、賃金命令の内容は随時更新されます。実際の給与設定・法令対応については、最新のDOLE・NWPC公式情報および現地の労務専門家に必ず確認してください。
出典・参考
- NWPC(National Wages and Productivity Commission)公式サイト:地域別賃金命令(Wage Order)の原文・最新レート確認に使用
- DOLE(Department of Labor and Employment)公式発表:NCR-27・NCR-28の発令経緯・施行日の確認に使用
- RTWPB-VII(Regional Tripartite Wages and Productivity Board Region VII):セブを含む中部ビサヤのWage Order ROVII-27の内容確認に使用
- JETRO(日本貿易振興機構)フィリピン最低賃金関連レポート:NCR-26・NCR-27の引き上げ経緯・地域別動向の確認に使用
- フィリピン統計庁(PSA):フィリピンの人口・労働力統計の参照に使用
- BSP(バンコ・セントラル・ング・ピリピナス):ペソ換算レートの参考に使用
この記事の監修者
大町潤一(フィリピン移住・起業コンサルタント)
GENSAI Career Consulting Corp 代表取締役、フィリピン在住13年
フィリピン移住・ビザ取得・語学学校経営・会社設立・起業相談、人材派遣、マーケットリサーチなど
幅広い分野で日本とフィリピンの架け橋として13年以上携わる。


